米政権をミサイル攻撃に踏み切らせた写真(シリア問題)

2017年4月6日夜(米国時間)、米国はシリア国内の軍事基地へ向け巡行ミサイル59発を発射しました。これはシリアのアサド政権による化学兵器使用によって民間人が殺されたと米側が主張している事件に対する反応であり、トランプ米政権としては初めての大規模な軍事行動でした。
しかしトランプ大統領は選挙期間中、中東地域に対する政治的関心は低く、ISIS(いわゆるイスラム国)を中心としたテロ組織との戦いを強調していました。実際、政権運営を開始してからもシリア問題に対してはロシア側への譲歩が見られていた為、軍事行動を起こすまでの数日のうちに急激な方針転換があったということになります。
実はこの方針転換には、報道写真が大きく関っていたとの話が出てきているので、ご紹介します。

米政権の方針変更

米国の新聞紙 The Wall Street Journal(以下WSJ)によると、3/29-4/2あたりの米高官の発言は、「アサド政権を引きずり下ろすことには拘らない」、「より優先されるべき課題がある」「アサド政権の処遇は、長期的にはシリア国民が判断するだろう」といったものでした。(時間は米国時間、以下も全て同じ)
しかし、4月4日にシリアにおいて禁止化学兵器を用いた民間人の殺傷事件が起き、その惨劇の写真が報道されると、トランプ大統領は何かしらの行動が必要と決断、声明文を練り、軍事アドバイザーとの会議を行ないました。
トランプ大統領は翌日の4月5日早朝に側近たちと会議を行い、訪問中であったヨルダンの国王と昼食を共にした後の記者会見でアサド政権を非難、15時頃から再び側近と会議を行いその場で提示された多くの選択肢の中から3つを最終候補として選定します(1つは経済制裁、2つは軍事行動)。
また、同日の4月5日には国連安全保障理事会の場において、米国のヘイリー国連大使が直接アサド政権、そしてアサド政権の後ろ立てであるロシアを批判します。
事件から2日後の4月6日、トランプ大統領は中国の習近平国家主席と会う為にフロリダへ向かう飛行機の中で選択肢を2つに狭め、フロリダに着いた16時には巡航ミサイルでのピンポイント攻撃を決断し、実行を指示しました。その後、19時過ぎから米中首脳会談へ臨み、習近平国家主席には帰り際にシリアへの攻撃のことを伝えたそうです。

トランプ大統領の態度を変えさせた写真

トランプ米大統領が態度を変えるきっかけとなった写真がどれかは、まだ伝わっていません。ただ、4月5日に開かれた国連安全保障理事会の緊急会合の場において、米国のヘイリー大使は2枚の写真を提示し参加者に呼びかけました。 

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国連HP(http://www.unmultimedia.org/s/photo/detail/719/0719297.html)

発言内容のうち、掲げた写真に関して言及をしているのは、以下の箇所です。 

私たちは昨日、起きたら写真を突きつけられました。子供tたちが口から泡を吹き、苦しみに痙攣し、絶望している両親の腕の中で運ばれている子供たちの写真です。私たちは、生命の失われた亡骸の列を見ました。幾つかは、おむつを履いていました。幾つかは、化学兵器による傷跡が目に見えて残っていました。

それらの写真を見てください。私たちは、それらの写真に目を閉じることはできません。私たちは、行動する責任に対して心を閉ざすことはできません。私たちは、まだ昨日の攻撃について全てを知っている訳ではありません。しかし、私たちが知っていることはたくさんあります。

※英語原文は以下の通り

Yesterday morning, we awoke to pictures, to children foaming at the mouth, suffering convulsions, being carried in the arms of desperate parents. We saw rows of lifeless bodies. Some still in diapers. Some with the visible scars of a chemical weapons attack.

Look at those pictures. We cannot close our eyes to those pictures. We cannot close our minds of the responsibility to act. We don’t yet know everything about yesterday’s attack. But there are many things we do know.

この後、過去の化学兵器使用がアサド政権によるものであったと国連の調査団が明らかにしていることから今回もアサド政権によるものである可能性が高いこと、ロシア政府が適切な力の行使をしていないことによってシリアで化学兵器が使われており平和が保たれていないこと、などの主張へ展開していきます。
トランプ大統領は事件翌日の記者会見で、記者から「禁止化学兵器の使用に対し行動する責任があると思うか」という問いに対して、「私には責任がある」とはっきりと意見表明しています。これまで当事者意識が全くなかったところから大きく方針転換した背景には、罪の無い一般市民、特に女性や子供、赤ちゃんが無残に殺害されたことが分かる写真を見て、トランプ大統領が感情的になり、殺戮行為をやめさせる為に行動すべきだと思い直したことが考えられます。
今回、トランプ大統領はかなり感情に揺さぶられる人だということが分かりました。日本では北朝鮮によるミサイル攻撃の脅威が高まっていますので、トランプ大統領には北朝鮮の現状を伝える報道写真を差し入れてみて、政権転覆を個人的な課題として貰える様にしてみると良いかもしれません…。

国連での米国大使の発言全文はこちら
Remarks at an Emergency UN Security Council Meeting on Chemical Weapons in Syria | usun.state.gov

※ビデオもあります